本当にあった怖い話・不思議な話
逢魔が時物語


<本 編>






∴‥∵‥∴‥∵ ボロ旅館 ∵‥∴‥∵‥∴


投稿:にーたさん(男性)
執筆:雲谷斎



     友だちのA君(仮の名を青山君にします)が体験した怖い話です。

     ある夏の日、男女六人で海に行こうということになったそうです。
     海は地元の神奈川なので、せいぜいクルマで二時間ぐらい。

     距離的には泊まるほどのこともないのですが、念のためにみんなお金は
     普段より多く持っていくことにしました。

     昼過ぎに海に着き、たっぷりと遊びました。
     夕方の四時過ぎまで遊んでから着替えをし、それから一時間ぐらい雑談
     をしたので、結局クルマで海を後にしたのは五時を回っていたとか。

     あいにくその日は休みだったこともあって道は大渋滞していました。
     このままでは家に着くのが深夜になるし、疲れていたので、仕方なく宿
     を見つけようとしたのですが、夏休みのせいかホテル、旅館、民宿など
     はどこも満室でした。

     あきらめかけていたところ、運良くボロい宿が見つかったのです。
     遊び過ぎてクタクタだったので、ボロでも誰も文句は言いません。

     ただ……宿に入ったとき、妙に静かでした。
     青山君は、一瞬すさまじい霊気を感じたといいます。

     「なぁ……ここ、やめないか?」

     そう言ったのですが、ほとんどの者は霊の存在はまったく信じていない
     し、宿探しのせいで疲れ切っていました。

     「ふざけるなよ。やっと探したんだぞ!」

     青山君は本気で怒られてしまい、仕方なく今夜だけだからいいかと思い
     直しました。

     飯を食べた後、みんなは風呂に入りました。
     男湯と女湯と混浴の三つがあって、真ん中に混浴、左は男湯、女湯が右
     という配置になっていました。

     青山君が湯船に浸かっていると、隣の風呂から音がします。
     一瞬、おかしいなぁとは思ったのですが、間違いなく混浴風呂からの音
     でした。

     誰か入ったのかなぁと思って、上がってから友達に訊くと、

     「お前たち、混浴入ったの?」

     って逆に言われたのです。

     つまり、誰も入ってないということです。
     おかしいのは、宿の客は青山君ら六人だけなのです。

     誰も混浴風呂に入ってないとすれば、あの音は……。

     ヘンだなぁとは思ったんですが、考えても仕方ないので部屋に戻って、
     すぐに寝ました。
     何時間か経った頃、青山君はふと目が覚めてしまいました。




        
気のせいか、部屋には誰か一人多いように感じるのです。
              

     目を開けて横を見たとき、間近に女の霊がいました。
     顔にはものすごい火傷をしていて、血がジクジクと滲み出ています。

     普通じゃない気配を感じたのか、何人か起きた者もみんな女を目撃
     してしまいました。
     しかし、その後のことは何も覚えていないのです。
     青山君だけでなく、みんな気を失っていたというのです。

     朝になって、昨夜の出来事のことを女将に訊いてみました。
     女将は一瞬驚いた顔になったのですが、あとは「知らない」の一点張り
     でした。

     逆に、頑なに知らないとしか言わないのは、何かを知っているという証
     なのかも知れません。
     結局、あれは何だったのだろうと、怪訝に思いつつ帰ったそうです。

     ずっと気になっていた青山君は、しばらくしてその旅館に電話しました。
     しかし、電話は呼び出しているにも関わらず一向に通じません。

     ますます気になった青山君は、一緒に旅館を見に行ってくれないかと、
     今度は僕に言ってきました。

     多少、興味もあった僕は一緒に行くことにしました。
     幹線道路から少し入った、わかりにくい所に建つその旅館には休業中の
     札がかかっていました。

     『なんだよ、営業やめてるのかよ……』

     せっかく遠いところを来たのにと、ちょっとがっかりしながら旅館の周
     りを歩いていたときです。

     一瞬、僕は窓から放射される冷たい視線を感じたのです。

     えっ! と思ってそっちを見ると……。
     青山君が遭遇したという、火傷と血だらけの顔の女がいたのです。

     僕のそばにいた青山君も凍りついていました。
     二人同時に、女を見てしまったのです。

     「来るな……入って、来るな……」

     女は僕たちの方を睨みながら、ざらざらした声でそうつぶやきました。

     『やばい!』

     僕は足をがくがくさせながらも、青山君を連れてなんとか逃げました。
     その後、すぐお寺に行って除霊をしてもらってきたのですが、僕たちが
     見たあれは、何だったんでしょう……。




    
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            <本編「ボロ旅館」データ>

     ■原作投稿者:にーたさん(男性)
     ■2006年度 読者が選ぶランキンランキン第8位  72.69点
     ('06年に発行した逢魔が時物語」メルマガ掲載話の読者採点結果)

     投稿された話を大切にしながら、雲谷斎が加筆・執筆しました。

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